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東京地方裁判所 昭和45年(手ワ)3150号 判決

原告 三敬金属株式会社

右代表者代表取締役 李華烈

右訴訟代理人弁護士 上野久徳

同 余吾要

同 木戸口久義

同 公文正夫

同 田村護

被告 石原金属工業株式会社

右代表者代表取締役 三山繁

右訴訟代理人弁護士 朴宗根

同 児玉幸男

主文

①  被告は、原告に対し、金二五〇万円およびこれに対する昭和四五年一〇月三一日から完済に至るまで年六分の割合による金員の支払をせよ。

②  訴訟費用は、被告の負担とする。

③  この判決は、仮に執行することができる。

事実

一  請求の趣旨

主文第一、二項と同旨の判決ならびに仮執行の宣言を求める。

二  請求の趣旨に対する答弁

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」

との判決を求める。

三  請求原因

1  原告は、別紙手形目録記載の約束手形一通の所持人である。

2  被告は、上記手形要件を記載し振出人として被告の記名捺印をして、右手形を振出したものである。

3  右手形は、満期に支払のため呈示されたが、支払拒絶がなされた。

4  そこで、原告は、被告に対し、右手形金二五〇万円およびこれに対する右手形の満期である昭和四五年一〇月三一日から完済に至るまで手形法所定の年六分の割合による金員の支払を求める。

四  請求原因に対する認否

請求原因事実中、被告が原告主張の手形行為をしたことを否認するが、その余の事実を認める。

もっとも、本件手形における原告主張の手形行為者としての被告名義の記名捺印が被告の印によってなされたことを認めるが、右被告の印は、被告の事務員角田照子が無権限で使用したものである。

五  証拠

被告において、本件手形の真否につき、被告会社代表者の尋問を申立。

理由

一、請求原因事実中、原告が本件手形の所持人であること、本件手形が満期に支払のため呈示され支払拒絶がなされたことは、当事者間に争いがない。

二1  被告は、原告主張の手形行為をしたことは争うが、本件手形における原告主張手形行為者としての被告名義の記名捺印が被告の印によってなされたことは、被告の認めるところであるから、反証がないかぎり、右手形行為は被告の意思にもとづいてなされたものと認めるのが相当である。

2  ところで、右反証となる証拠はない。

3  もっとも、被告は、本件手形の振出人欄の成立の真否につき、被告会社代表者の尋問を求める。ところで、手形訴訟では民事訴訟法四四六条二項により相手方または第三者の所持する文書の提出命令の申立は禁止されているから、被告の右申立は、原告にその所持する本件手形を書証として提出することを促すとともに、本件手形の振出人欄の成立の真否につき被告会社代表者の尋問を求めるものと解される。したがって、原告において被告の要望に応じて本件手形を書証として提出しないかぎり、被告の右申立は、採用のかぎりでない。のみならず、手形行為は、書面を通じてなされる意思表示であって、右書面(手形)を離れては存在しないから、この書面行為の点に関するかぎり、手形は、証明の対象であって、証明の手段ではない。すなわち、手形金請求訴訟において、当該手形は、呈示、支払拒絶等の手形行為以外の事実についてはともかく、書面行為たる手形行為の点については、書証としての適格を欠くものというべきであるから、被告の前記申立は、この点においても失当であって、却下を免れない。

三  以上によれば、原告の請求は、理由があるから、これを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を、仮執行の宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 渡辺貢)

〈以下省略〉

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